デフォルメBigシリーズの背景にも使われている森の写真のひみつ。
今から数年前、まだ造形会社に勤めていた頃、○○科学博物館の仕事でマレーシアはボルネオ島に行った事がある。熱帯雨林の林冠部のジオラマを創る為の植物の採取、樹木の表皮や葉の型取り、資料写真撮影が目的だった。場所はサバ州キナバル国立公園内ポーリン温泉。かつて第二次世界大戦時、日本軍が掘り当てたとされる温泉で、日本の温泉とは少し様相が違い、屋根付きでひと坪程度の湯舟が点在し水着で入る露天風呂みたいなもの。その温泉の奥に登山道がありそこから熱帯雨林が広がっている。
登山道の入り口からすでに湿度100%状態。そこは地元新聞にラフレシア開花情報も載るくらい有名で観光客も多く、遊歩道が完備され歩きやすいが傾斜がきつい。とはいえ、ラジカセを抱えて地元の歌謡曲をお構いなく流しながら登る観光客やらオラン・ウ-タンを連れて歩く謎の人も居るくらい気楽に入る事が出来る。そう観光用のキャノピーウォーク(樹と樹の間に架かる吊り橋)までは・・・。
観光用キャノピーウォークまでは40分くらいでそこからが大変だった。実際に向かった場所は、現地で働く海外青年協力隊の協力により、遊歩道から外れて1時間程獣道を登ったところ。ジャングルの林冠部を一望できる研究用キャノピーウォークがあり、巨木の上層にはり巡らされたキャノピーウォークは壮観ではあるが、観光用とは違いなんとも頼り無い吊り橋で、網もなくロープを張って足場板をのせただけの絶叫アトラクションに近い。
この時は常に上ばかり観ていたので、ミツヅノコノハガエルやマレートビガエル(パラシュートガエル)等には出会う事は無かったが、メガボール(ダンゴムシ)や人面カメムシは出会えた。もう少し時間と余裕があればと後悔・・・。
研究用キャノピーウォークの最終到着地点は周辺が一望出来る程高く、広大に広がる熱帯雨林が眼下に見る事が出来る・・が、そこで目に入った物は、所々伐採され、禿げ広がったところや、工業プラントが立ち並ぶ光景だった。
何とも言えぬ心地で宿に帰る道中の町並みに、日本の有名なシリコーンメーカーや化粧品、洗剤メーカー等の工場が多くあったのも記憶している。
森に頻繁に入り写真を撮るようになったのはこの時から。
そして現在ホームグランドと言える秘境芦生。ボルネオに行く前から、渓流釣り行っていたところで、京都市内から車で1時間半程で行ける。そこは京都府北東部の美山町の一角にあり、福井県、滋賀県との県境に位置し、森林帯として西日本の暖温帯と東日本の冷温帯の移行地帯のためとりわけ植物の多い所、関西で原生林が残っているのは大台ヶ原と芦生ぐらいかと思われる。がしかし、本来の意味の原生林と言えば、その範囲は広いとは言えない。
京都大学演習林事務所に入山届けに必要事項を書き入山すると、暫くは天然林、人工林が続く。その道は木材運搬の為のトロッコの軌道があり、森とその土地の人との古い関わりを感じる事が出来る。20分もすると灰野という昔集落があった場所に着く。ここまでは現在もトロッコは現役で、軌道も整備され稀にトロッコに出くわす事が有る。 灰野からカヅラ谷、七瀬に向かう途中所々足場も悪くなってくると、風格ある老木が顔を覗かせ飽きさせない。苔を伝って流れ出る水で喉を潤しながら進むのも楽しみ。梅雨から真夏にかけてはカエルや蛇が多く、アズマヒキガエル、カジカガエル、アオダイショウ、マムシ、ヤマカガシ等沢山出会える。
所々支流があるので度々渓流を遡上するが、なるべく獣道を探し出しそこを歩く。
森の写真の多くはここ芦生の渓流を遡上したところ。新芽が出た頃もいいが、梅雨明けぐらいの苔毟った頃が実に神々しく感じる。
残念ながら今年はなぜか森へ足を運ばなかった。とても後悔している。